宅建士試験では、「時効の更新」「時効の完成猶予」「時効の援用」が重要な論点となります。それぞれの違いを正しく理解し、混同しないようにしましょう。
1. 時効の完成猶予(時効の猶予)
時効の完成猶予とは、特定の事由が発生すると 一定期間、時効の完成が一時的に停止する 制度です。猶予期間が終わると、時効の進行が再開されます。
主な時効の完成猶予事由
- 裁判上の請求
→ 債権者が裁判所に訴えを提起すると、訴訟が続く限り時効の完成が猶予される。 - 支払督促
→ 裁判所が支払命令を発すると、その手続きが完了するまで時効が猶予される。 - 強制執行・担保権実行
→ 差押えや仮処分などの手続きが継続している間、時効は完成しない。 - 催告
→ 債権者が債務者に対して請求を行うと、6ヶ月間は時効が猶予される。 - 協議を行う旨の合意
→ 債権者と債務者が書面や電磁的記録で「協議を行う」旨の合意をした場合、時効の完成は最大1年間猶予される。
2. 時効の更新
時効の更新とは、それまでの時効期間がリセットされ、ゼロから新たに時効の進行が始まる ことを指します。時効の完成猶予とは異なり、更新が発生すると、それまで経過した時効期間はすべて無効になります。
主な時効の更新事由
- 債務者の承認
→ 債務者が「借金を返済する」と発言した場合、債務の存在を認めたことになり時効が更新される。 - 確定判決
→ 裁判で勝訴し、債権が確定した場合、その時点で時効が更新される。 - 和解・調停
→ 裁判上の和解や調停が成立した場合、その合意に基づき時効が更新される。
例えば、借金をしている人が「返済の意思はあるが、少し待ってほしい」と発言した場合、それは債務の承認とみなされ、時効が更新されます(民法152条)。
3. 時効の援用
時効の援用とは、時効を主張すること を意味します。時効は一定期間が経過すれば自動的に適用されるわけではなく、当事者が「時効を援用する」と意思表示をしなければなりません(民法145条)。
時効の援用のポイント
- 時効期間が満了しても、当事者が援用しない限り権利は消滅しない。
- 時効の援用は、裁判外でも可能。
- 口頭でも主張できるが、証拠を残すためには内容証明郵便などで通知するのが一般的。
- 企業などが消滅時効を知らずに請求すると、相手に援用されて支払いを拒否される可能性がある。
- 債務者が時効を知らずに支払ってしまった場合、時効を援用できなくなることがある。
例えば、債権者が時効期間を過ぎた債権の支払いを請求した場合、債務者が「時効が完成しているので支払いません」と主張すれば、債務の支払い義務は消滅します。
4. まとめ
- 時効の完成猶予
→ 一時的に時効の進行をストップするが、期間が終了すれば時効の進行が再開する。 - 時効の更新
→ それまでの時効期間をゼロにリセットし、新たに時効が進行する。 - 時効の援用
→ 時効を主張しなければ、その効果を受けることはできない。
時効の完成猶予と更新の違いを理解し、時効の援用が必要であることを押さえておきましょう。
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